ぼうくん保育園


保育士: 兄さん 真崎 ヒロト

森永さんちのお父さん: 国博

子: 森永 かなこ 巴 磯貝 黒川 



「ヒロトせんせいマサキせんせいおはようございます」
「おはようさん。エンゼル君はいつも礼儀正しいええこやなあ。ほんまエンゼルやわあ」
「おはよう。哲くん。やはり親御さんがしっかりされてますからね。シングルファザーなのに頑張ってる、見た目もイケけてるし」
「マサキせんせ。保護者との恋愛はご法度やからね」
「やだなあ。そんなんじゃ無いですよ。でもあんな堅そうな人押し倒して拘束して無理やりあんあん言わせちゃうとかどうです?萌えませんか?」
「あんた上の人やったん?」
「さあ、どっちでしょう?」

「ソウイチせんせいおはようございます」
「ん。おはよ。おらぐずぐずしてねえでさっさと教室行け」
「ちょっとソウイチせんせ。子おたちはもっと愛想よく迎えてえな。なんで朝からそんな仏頂面なん?」
「まーた彼氏とケンカでもしたんじゃないの?それとも一晩中頑張りすぎて疲れちゃってる?」
「はあっ!?てめえ、マサキ!子供の前で変なこと言ってんじゃねえよ!」
「彼氏・・・あああれね。エンゼル君によう似とる、でもちょっと残念な感じの」
「関係ねえっ!ってかそんなもんいねえっ!ほら早くガキどもの着替えやってやれよ、ごっちゃごちゃになってるぞ!」
「ああほんとだ。おおいみんな。早くお着替えしようね。お、かなこちゃんはさすがだね。もうちゃんと準備できてる」
「せんせえ、ともえくんがおしっこだって」
「せんせえ、たいっちゃんがみっちゃんいじめてる。みっちゃんみちみちうんこたれてってうたってる」
「はいはい、ほら静かにしよう。早く準備できたら先生が本読んであげるからね。よおし今日は何巻がいいかな?5巻にしようかな?」
「ぎゃあーーーっ!!!なに読み聞かせしようとしてんだよ!やめろっ!!!」




「あーやっと寝た。ったくあんのクソガキども、昼寝させんのも一苦労だっての」
「宗一先生お疲れー。ところで今日の夜なんだけど、なんか予定ある?」
「予定・・・あ・・・」
「あるんだ。分かりやすいなあ。デート?」
「ちっ違っ!そんなんじゃねえ!別に予定なんか無い!」
「そう?じゃあさ。残業いいかな」
「・・えっ?」
「悪いな、ソウイチせんせ。エンゼルくんとこのパパさん出張で遠くまで行っとるんよ。10時までには戻らはる言うてるからそれまでエンゼルくんと一緒に待っとって欲しいんやけど。ご飯食べさせて寝かせたって。悪いなあ。ボクんとこの店今風邪引き多くて休まれへんねん」
「俺んとこも人手足りなくてさ。ほんっとこんなチャンス君に譲るの悔しいんだけど、ま、頼むわ」
「わ・・・分かったよ。って、ちょっと待ておまえら!普通に何言ってんだ?ここって副業オッケーなのかよ?」
「細かい事気にするなって。あーいいよなあ。きっと森永氏は真面目だからさあ。汗だくで髪乱して走って来るんだよ、スーツで。たまんないね。押し倒すなよ?宗一先生」
「誰がするか、アホ!ったくさっさと手え動かしてお花飾り作りやがれ!」


ひゃーん!


「あ、誰か泣いてるね」
「せんせー!ともえ君おもらししたー!」
「はいはい。ほらタオル持って行くで。あ、宗一先生はおやつの準備しといてな」
「おう。頼んだぜ」


「ええと今日のおやつはビスケット3枚のチョコ一個の・・・ぶつぶつ・・・」
「せんせえ」
「せんべえが・・・ん?せんべい?」
「ソウイチせんせえ」
「おうっ!なんだ、哲か。小さくて見えなかった。どうした、もう昼寝終わりか?」
「きょうぼくのパパおむかえこないの?」
「いや来るぞ。ちょっと遅くなるだけだ。それまで俺が一緒にいてやっから。飯もちゃんと食わせてやるから心配すんな」
「ソウイチせんせえと?ふたりっきり?」
「二人っきりだけど寂しくは・・・ってなんだよおまえ嬉しそうだな」
「今日はごはんいっしょにたべる?いっしょにねる?」
「・・・ってそれなんか今日の朝聞いたようなセリフ・・・あっ!」
「せんせえどうしたの?」
「いやすまん哲。先生ちょっと電話してくるからおまえは教室戻ってろ。じゃあとでゆっくり遊ぼうな!」
「・・・うん」


「・・・って訳ですまん。今日はキャンセルだ。ああ?何言ってんだよ、二人ったって相手園児だぞ?はあ?来る?ああじゃあ飯だけ届けてくれ。置いたらすぐ帰れよ?ああ?あったりまえだろ?父兄に見られたら面倒だろって。じゃあこれからおやつの時間だから切るぞ!」


「業務時間中に彼氏に電話か。やーっぱ予定あったんじゃん。ま、しょうがないけどさ。優しくしてやってよね。あいつ傷つきやすいからさ」
「な・・・何立ち聞きしてんだよ、真崎!・・・ってもうおまえには関係ねえだろ。ほっとけよ」
「ドアが開いてたんだよ。まあ関係無いけどね。昔のことだから」
「・・・」
「君、哲博を幸せにできる?」

「あー忙しい忙しい。ちょっとあんたら何さぼっとんの。早くテーブル出しておやつの用意してえな!」
「はいはーい。行こ、宗一先生」
「・・・・」




「ぐっすり寝ちゃいましたね」
「ずいぶん遊んでたもんな」
「最初はすごい睨まれてたからどうしようって思ったけど、懐いてくれて良かったです」
「精神年齢が近いんじゃねえの?」
「そんな・・・まあそうかも知れませんが。何か他人の気がしないんで」
「助かったよ。ありがとな」
「いいんです。どうせ一人で家にいたってつまらないし」


夜の保育園は昼間の大騒ぎとは打って変わってしんと静まり返って怖いくらいだった。
いつもは所狭しと布団が敷かれる大部屋に、ひとつだけぽつんと敷かれたプーさん柄の子供布団に眠る哲。側でそれを見つめる宗一先生とその彼氏(?)森永。


「寝顔、かわいいですねえ」
「そうだな。クソガキどもは起きてる時は悪魔だけどみんな寝顔はかわいいんだよな。ま、こいつは起きてる間も割と手のかからないいい子だけど」

(先輩、そんな優しい目をするんだ。クソガキとか文句ばっかり言ってるけど、ほんとは子供好きなんだよなあ。保育園に就職するって聞いたときはほんとびっくりしたけど)

「なんか・・・おまえと似てるんだよな」
「えっ・・・?」

思わずにじり寄る森永。

「な、なんだよ」
「俺のこともそんな風に見つめて欲しい・・・」
「はあ?おまえ何言って・・・あ・・・」


くまさんアップリケのエプロンの脇からそっと手を差し入れシャツの胸元をさぐると宗一の頬がみるみる赤みを増した。


「馬鹿・・・こんなとこで・・・」
「ん・・ちょっとだけ・・・ね?だってもうこんなになってるよ?分かる?」


ピンポーン


「ひいっ!!!」
「え?何?何?」
「迎えだよ!このエロ馬鹿!離れろ!」
「痛っ!顔蹴らなくてもっ」
「哲、父ちゃん来たぞ、って、あー寝込んじまったなあ。こりゃ起きねえな」
「俺抱いていきましょうか?」
「いいっての。おまえはここの職員じゃねえんだから。変な噂が立ったら困るんだよ、あっち行ってろ!」
「いいじゃないですか。気にし過ぎですって。先輩はほらカバンとか持ってきてよ。はい、哲君、抱っこするよ、よいしょっと」
「おいっ、待てっての!」


「お父さんお帰りなさーい。哲君すごくいい子で・・・って、え?」
「哲博・・・?」
「ったく。はいこれカバン・・・ん?どうした?」
「兄さん・・・」
「はああああ???」


取り合えず夜も遅いし、連絡先だけ交換して今日のところは・・・と別れた森永兄弟。
そして帰路につく宗一と森永。


「兄弟だったのかよ。ってかなんで兄弟の居場所も家庭事情も知らねえんだよ。おかしいだろ」
「ほら俺、実家から勘当されてるようなもんだから、確かに兄さんが結婚して子供できたとかそんな話は聞いてましたけど、離婚したとかこの辺住んでるとかそんなことまでは知らなかったから・・・」
「んー。言われて見れば同じ苗字だな。全く気がつかなかった」
「気づいて下さいよ!哲君の名前呼ぶ時に俺のこと思い出したりするでしょ?」
「しねえよ!ってかおまえの下の名前なんかはっきり覚えてねえっての」
「ひどいですう。哲博です、覚えてください、哲博、哲博!!」
「うっせえ!人の名前なんかイチイチ覚えてられっか!」
「それって保育士としてどうなんですか・・・」
「ま、何はともあれ良かったじゃねえかよ、これからは兄弟仲良くやってくれ。そんだけの話だろ?」
「・・・でもなんで・・・」
「ん?」
「いやなんでもないです」
「?」


(どうして真崎さんは兄さんのこと教えてくれなかったんだろう・・・)




「おーおまえら、そろそろ昼寝の時間だ、布団敷くぞ。ん?何してんだ?男女で向かい合って」
「ソウイチ先生も入る?合コンごっこ」
「・・・タイチロ。おまえそんなのどこで覚えて来るんだよ」
「あー先生はこんなの必要ないか。恋人いるもんね」
「え、あ、おまえっ何言い出してっ」
「兄さん、恋人いるの?誰?かなこの知ってる人?」
「いねえ!ってか、かなこ!合コンなんかしてんな!それに兄さんじゃねえ、先生って呼べ!」

「もうソウイチせんせ!お布団敷いてってゆうとるのに!またそんな騒いで!いい加減にしといて!」
「やーい。怒られたー」
「待てタイチロてめえ!」

「ちきしょークソガキどもめ。やっと寝やがった」
「おつかれー。しかしほんと君っていつも怒ってるね。あんまり保育士向いてないんじゃないの?」
「マサキ・・・。おまえに言われたかねえよ。ほっとけ」
「ああ、そうだ。保護者面談のことだけどさ。哲くんちは平日無理らしいんだよね。ソウイチ先生、休出でもいい?」
「はあ?何だよ、面倒くせえな」
「代わりにやってあげようか?」
「・・・別にやらんとは言ってないだろ。仕事だからちゃんとやるっての」
「大丈夫?」
「何が」
「だからさ。いろいろ」
「・・・関係ねえだろ。哲について話すだけなんだから」
「ふうん。ならいいけど」


・・・そっか。哲のオヤジは森永の兄貴・・・。
ったくややこしい!
でも別に俺には関係ねえし。
・・・
あいつあれから何にも言わねえけど、住所くらい教えてやった方がいいのか?でも聞かれもしないのに勝手に個人情報漏らすわけにも・・・。
マサキ。あいつはどこまで知ってんだ。
あいつが二人を引き合わせてやれば・・・ってだめだ!森永にはもうマサキは関わらせないように・・・。
ん?なんで俺そんなムキになってんだ?

ったくもう!
あいつら何兄弟で面倒くせえことやってんだよ!!

「ったく森永のやろう!」

「せんせえ?」
「・・・ん?哲?昼寝はどうした。もう起きたのか?ああ、森永って言ってもおまえじゃねえ。馬鹿の方の森永だ」
「このあいだいっしょにあそんだひと?」
「・・・ああ」
「あのひとせんせえのこいびとなの?」
「ぶあっ!な、な、な!ってここで騒ぐとまたヒロト先生に怒られるからちょっと布団部屋に来い、哲」
「いいけどいまそこはみっちゃんとトモちゃんがはいってる」
「んぬあんだとおおーーー!!!」


「ソウイチせんせえいっちゃった。でもこいびとってなんなんだろう。パパとマサキせんせえみたいにはだかでいっしょのおふとんでねるひとのこと?でもぼくだってソウイチせんせえといっしょにおひるねしてるもん」




「ソウイチせんせえ、おべんとうたべてるの?」
「ん、なんだ、哲。外で遊ばねえのか?ああ、おまえらと一緒じゃゆっくり食えねえからいつも昼の片付け終わってから食うんだ」
「タコさんういんなだ!」
「はっ、こ、これは俺が作ったんじゃねえっ!ってかいや、あ、俺だ、俺が作ったんだ!」
「おいしそうだね。じょうずだね」
「ん・・・ま・・・まあ」

「せんせえはとししたのおとこすきですか」

「ぐへっ」

「あーあ。タコさんでちゃった」
「おまえが変な事言うからだろ!哲!おまえ何言ってっ!」

「ごういんなおとこすきですか」

「ぶへっ」

「えっと、あとなんだっけ」
「・・・おい。それ誰に聞けって言われた?」
「マサキせ・・ううん、ないしょのやくそくなの」
「真崎・・・殺す」
「あのね、ぼくソウイチせんせえだいすき(にこっ)」
「あ・・・ああ・・・俺も・・・好きだ」
「おれたちこいびとどうしになった?」
「ひあっ!?」

「わー哲くんはすごいね。読んであげた絵本、ちゃあんと聞いて覚えてるんだね。マサキ先生嬉しいなあ。読みがいがあるなあ。うん、なんかね、本誌の流れでもなんかいい感じだからさ、今度は最新の雑誌・・・じゃなかった絵本読んであげるね」
「わーい。マサキせんせえ、ありがとう。じゃあぼくおそとであそんでくるね」
「よおし、先生も行くぞー!先生いい縄持ってるから縄跳びでもしようか!本格的に手錠を使って泥刑でもいいぞ!」
「んぐはっ!こらー!!!マサキー!!そんなも・・・ぐえっ」
「ほら、ゆっくりよく噛んで食べなよ。ハート型おにぎりが喉に詰まるよ?ん?なんだいこのイエスの海苔文字は。何かのメッセージ?ってかさ、毎日イエスしか書いてないね。んー、いいねえ!若さ!」
「ちがっ、俺はノーなんだって、毎日見てんじゃねーーー!!!」
「ソウイチせんせ!職員室で騒がんといて!」




保護者面談

「哲君に関しては特に何も問題ないですね。友達もたくさんいるし元気にやってますよ。お父さんから何か気になることはありますか?」
「はい。うちは父子家庭なのでその点他の子に決して劣ることの無いようにとの教育をしてきましたし片親でも二人分の愛情を注いできたつもりではありますがしかし」
「しかし?」
「最近こんな絵をよく描くんですよ。やはり母の愛に飢えているのかと思うとどうしたらよいものやらと」

(髪が長くてエプロンで・・・でか目・・・ってこれメガネじゃねえのか?ツルねえけど。お、俺かよ!?・・・この人気づいてねえよな)

「いや・・・特に園ではそういった感じは見えませんけど・・・」
「そうですか。ならいいんですが。とにかく他の子には負けないようにそろそろ塾にも入れてそれなりの大学に進学を・・・」
「あの、これ保育園の面談なので、大学とかそういうのはまだ・・・」
「いや、甘やかすとろくなもんになりませんからね。あいつのように」
「あいつって・・・森永ですか」
「は?私も森永ですが?」
「あ、えっとなんだっけ。ひろ?ひろし?」
「哲博・・・ですか?」
「ああそう、それ」
「失礼ですがあなたは哲博とはどういったご関係で?」
「いやあれ、大学の先輩後輩ですよ。農学部の院で」
「農学部の院卒で保育士というのはどういった御事情なんですか?」
「それには深い理由があんだよってか俺のことはいいから。おまえら兄弟どうなってんだって話。あれから会ってんのか?」


「はーい。時間終了でーす!」

「でめ、マサキ!おまえが来てるなら俺がわざわざ休日出勤して面談しなくてよかっただろ!」
「ソウイチ先生?面談で私的な質問しちゃだめじゃないですか。哲君お庭で待ちくたびれてますよ。森永さんだってお忙しいんですから。はい、哲君はいい子ですってことで面談終了」

「せんせえ!ソウイチせんせえ!ころんじゃった。いたいよー!」

「わ、大変だ。ソウイチ先生!」
「お・・・おう、こっち来い、哲。洗ってクスリつけよう」


「なあ。真崎。あの人にうちの息子任せて大丈夫なのか?取りあえず学歴はあるようだが」
「大丈夫だよ。あれに憧れてるうちは新しいママが欲しいなんて言い出さないだろうしね」
「憧れ・・・てるのか?哲が?あんなのに?」
「ほんとにねえ。趣味が変わったよね。哲博ってば」
「哲・・・博?」
「何でもないよ、帰ろう。せっかくの休みなんだから、ね?」


つづく

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