Hush−hush
まち
今日は年に一度の七夕様。
かなこちゃんに誘われ、先輩と俺は松田家で夕飯をご馳走になった。七夕らしいトッピングのちらし寿司がとても美味しくて、俺はしっかりレシピを教えてもらった。
(今度作ってみよう♪)
そのあとはかなこちゃんに促されて三人で庭に出て、用意されていた短冊に願い事を書くことになった。
「森永さん、決まった?」
「う〜ん、悩んでる。かなこちゃんは?」
「かなこはもう決まってるの。兄さんは?」
「俺か?」
話を振られた先輩はさらさらと何事か書き込んでいく。見てみると・・・。
『ホモ撲滅』
「もう!兄さんたら真面目に書いてよ!」
「いたって真面目なんだがな・・・」
かなこちゃんに怒られた先輩は書いた文字を二重線で消したあと、その横に再度書き込んだ。
『家内安全』
「ははは・・・」
「なんだよ?」
「いえ、先輩らしいなと思って」
「悪いかよ?ならお前もさっさと書けよ」
「はい」
俺はマジックを持ってしばし短冊を見つめる。
(流石に書けないよな〜。書いたら間違いなく殴られる★)
思い悩んだ結果、書いた言葉は当たり障りのない内容になった。
『学業成就』
「まあ・・・無難だな」
「学生らしくていいでしょ?」
「二人ともロマンがない!今日は七夕だよ?」
そう言って書いたかなこちゃんの短冊には?
『素敵な人と巡り会えますように』
「かなこ!?お前にはまだ早い!高校合格にしとけよ」
「いいじゃない。こういう日は夢のある願い事で。兄さん頭固〜い!」
「まあまあ・・・もう一枚書くということで・・・」
俺が妥協案を出すとかなこちゃんは「そうだね」と新しい短冊に『高校合格』と書き込んだ。
「じゃあ飾ろうか?」
すでに折り紙で作ったわっか綴りや吹流しが飾りつけされているやや小さめの笹に、紙縒りを通して結びつける。
「先輩?」
「煙草吸ってくる。お前やっとけ」
「は〜い」
先輩は自分の短冊を俺に押し付け、庭の隅に歩いていった。
「さーさーのーは、さーらさら〜♪」
「のーきーばーにゆーれーる〜♪」
歌い出したかなこちゃんにはもるように俺も歌いながら先輩の分を結びつける。
(そうだ!)
かなこちゃんがいるからアッチの願い事はまずいけどこのくらいなら・・・。
俺は先輩がこちらを見ていないことを確認し、残っている短冊に急いで願い事を書いた。
「森永さん?」
それに気付いたかなこちゃんに俺は人差し指を立てて『しー』とジェスチャーし、目立たない場所にこっそり結びつけた。
『ずっと一緒にいられますように』
文字を確認したかなこちゃんも『内緒♪』と人差し指を立ててひっそりと笑う。二人の秘密のやりとりは先輩には気付かれてないみたい。
「森永さん、どれが織姫と彦星か知ってる?」
そっと話を変えるかなこちゃん。
「あそこに強く光ってる星わかる?」
東の空を指差して、俺は説明する。
「上のほうが織姫星のベガ、その右下が彦星のアルタイル、そして間が天の川なんだけど・・・こう明るいと見えないね」
「詳しいね!」
「ちなみに織姫星の左下のデネブと合わせて『夏の大三角』になるんだよ」
「森永さんすご〜い」
小声で「兄さんとは大違い」と笑いながら遠くの星を眺めるかなこちゃん。
「織姫と彦星、会えたかなあ?」
「会えたよ」
(俺はね・・・)
一年の一日と言わず毎日会える素敵な人に。
そう考えると俺って幸せ者だなあなんて思ったり・・・。
「かなこちゃ〜ん、スイカ切ったわよ〜」
「はーい。森永さん、取ってくるね」
松田さんに呼ばれたかなこちゃんが一旦部屋の中に戻る。
それと入れ違いに戻ってきた先輩。
「ずいぶん楽しそうだな」
「七夕とかすることないですからね!なんかわくわくします」
「そんなもんか?」
そう言いながら同じように東の空を眺めた先輩の横顔がとても綺麗で・・・。思わず引き寄せてキスをしていた。
「ばかっ!こんなとこで・・・」
「大声出すとびっくりされますよ」
「・・・」
俺を一睨みした先輩だけど、それすらも可愛くて。俺は先輩の耳元に唇を寄せ、内緒話を囁いた。
「今夜はミルキーウェイで泳ぎますか?」
「っ!?」
意味を理解したらしい先輩は耳を押さえて飛び退いた。首まで真っ赤・・・。
「ふざけんな」
「ふざけてないのに・・・」
「お待たせ〜♪って、二人ともどうしたの?」
「どうもしねーよ!」
誤魔化すように勢いよくスイカを取って食べる先輩。
「へんな兄さん・・・」
不思議顔のかなこちゃん。俺も勧められてスイカを食べながら、心の中でこっそり呟く。
二人だけの大切な会話は・・・
(絶対秘密v)
おしまい
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