One minute

                  マドモアゼルM

俺は後悔している。
あんなこと言わなければよかった。
冗談で「布団を温めておけ」なんて。
あいつが「お風呂先にいただきます」って
珍しいことを言った時点で気づくべきだった。
俺は、どうしてくれようかと思案にくれる。

風呂から上がった俺の部屋のベットには
でかい図体の「ゆたんぽ」がもぞもぞしている。

「おい、てめぇ・・・」

とりあえず、布団の真ん中あたりに一発蹴りを入れる。

「ひどいですよー先輩」

森永がゆっくりと布団から頭を出す。

「お前っ!俺のベットで何してやがるっ!」

怒鳴る宗一に対して森永は負けるまいと反撃をする。

「だって先輩言ったじゃないですかっ!俺の布団を温めとけって」

「あれは、冗談に決まってだろう!アホっ。とりあえずそこから出ろ」

布団を引っ張るが、森永も必死の抵抗を試みる。

「出ろよっ この・・・・巨大ボケゆたんぽがっ!」

2人で布団の引っ張りあいをするが、森永の力に宗一はかなわない。

「嫌です!!先輩 確かに言いましたよ!『俺の寝る一分前に出ろ』って」

「・・・はぁ?」

布団の中の森永を足蹴りしながら、
意味が分からないと宗一は怪訝な顔をする。

布団をとられまいと、必死に端をつかみながら叫ぶ森永。

「だから俺は、先輩が寝る一分前までは布団にいないといけないんです!」

唖然とする宗一。そう言えば確かに言った。
ちゃんと言葉を選べばよかったと・・・今になって後悔する。

「先輩、自分の言ったことは ちゃんと 責任 取ってくださいね 」

わざと言葉を区切って話す、森永のにこにことした顔が心底むかつく。

「・・・ちくしょ・・っ!!わかったよ!だけど何もするなよ。
お前はただのゆたんぽだからなっ 俺が寝そうになったら即行で出ていけよ。
そこつめろよ、狭いんだよ!」

驚く森永を、端に押しやって、自分もベットにもぐりこむ。
確かに、ゆたんぽのせいで布団はじんわりと温かかった。

「先輩こっち向いてくださいよ」

自分の後ろから森永の声が聞こえる。誰がそっち向くかよ、と言わんばかりに
宗一は完全に森永とは逆の方向を向いて横になった。

「せんぱーいってば」

「うるさい」

「お話しましょーよ」

「黙れ、ゆたんぽ」

聞く耳を持たない宗一の表情は森永からは見えない。
だが、長い髪に隠れた耳が赤くなってるのを森永は見逃さなかった。

『動揺してるの、ばれてるのに・・・・』

かわいくて愛おしくてたまらなくなる。
ふと、森永にいいアイディアが浮かんだ。

「せんぱい ゆたんぽが嫌なら・・・・」

「あ?」

不穏な声に起き上がろうとした宗一を、森永は背中越しに後ろから抱きしめた。
突然の出来事にあわてる宗一だが、自分の両手も森永の両手にしっかりと
つかまれていた為、身動きがとれなかった。

「なにするんだ、お前っ」

首をかろうじて動かして、後ろから自分を抱きしめる森永を睨む。
森永は意地悪そうな顔で答えた。

「だ き ま く ら。保温機能付きの」

呆然とする宗一。森永はにっこりと笑う。

「なんにもしませんって。この方があったかいでしょ?」

「抱き枕の意味が違うだろーがっ!」

しばらくは抵抗を試みたが、疲れきったのか森永に抱かれたまま
大人しくなる宗一。

「・・・おぼえとけよ・・・」

恨み言のように小さく聞こえる言葉は聞こえないふりをしておこう、と森永は思った。

森永の中におさまった宗一は、緊張せいかじっと動けない。

『寝られるかよっ こんな状態で』

森永の存在が、体温が、息づかいが自分の背中を通じて伝わってくる。
あいつの香り・・・多分ボディーソープだろうか。あいつの香りが、
ふわりと自分を包み込む。宗一の鼓動が少し早くなる。

「ちゃんと先輩が寝たら出て行きますから、今はこのまま・・・」

無言の2人。聞こえるのは時計の秒針の音のみ・・

『・・・・まぁ、こんな抱き枕も悪くないかも・・・・』

森永の存在に安堵感を覚え、いつの間にかゆっくりとまどろむ宗一。
やがて小さな寝息が聞こえはじめる。

「・・・先輩?」

小さく声をかけるが、宗一は答えない。
腕をゆるめて覗き込むと宗一はやわらかな顔で眠っていた。

「おやすみなさい。よい夢を」

頬に軽く触れるようなキスをして、森永はゆっくりと起き上がった。
だが、しばらく考えた後、またベットに入り宗一の横に戻る。

「ま。いっか。明日怒られよっと♪」

布団を整えて、宗一を抱き締めながら森永は眠りについた。


 おわり

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