ソウイチと魔法のランプ

                             まち

「まずいな・・・」

俺は困っていた。
真っ暗な部屋に閉じ込められ、何も見えない。

「くそっ!どうすれば?」

なぜこんな状況になったかというと、話はしばらく遡る。
俺は一人、自宅に向かって歩いていた。そのとき見知らぬ男に声をかけられた。

「すみません」
「何か?」

最初は道でも尋ねられるのかと思っていた。だが・・・。

「お願いがあるのですが・・・」
「あいにく急いでるんで」

醸し出す怪しい雰囲気に、俺はさっさと通り過ぎようとした。

「待って下さい!勿論ただでとは言いません。頼みをきいて頂ければ、お礼にこれを差し上げます」

男が懐から出した本は・・・俺が以前から欲しかったプレミアものの『どく毒★読本』ではないか!

「・・・とりあえず聞いてみるが、何をすればいいんだ?」
「とある場所からランプを取って来て下さい」
「・・・それだけか?」
「はい、それだけです」

俺は考えた。その程度であの本が手に入るなら?

「わかった、きいてやる」
「おおきに!」

男が何事か唱えると地面に穴が開き、階段が出来た。

「この階段を下りたら部屋があるさかい、すぐにわかりますわ。あ、これはお守りな♪」

男は俺に赤い石のついた指輪をはめた。

「ほな、頼んます!」
「ああ・・・」

男に見守られ、俺はゆっくりと階段を下りる。
やがて部屋に辿り着き、中を見渡せばテーブルの上にランプがあった。

「これか・・・」

さっさと持って戻ろう、そう考えたとき部屋のドアが風もないのにバタンと閉まる。

「なっ!?」
「堪忍な〜。その本は約束通りあげるさかい、恨まんといて!」

あの男の声がして、俺は真っ暗な場所に閉じ込められた・・・。


×××

ここで回想してても始まらない。
とりあえず手探りでドアに近付き、ノブを回したりドンドン叩いたがびくともしなかった。

「マジでやばいぞ!」

また少し考え、男の指輪にここから出るヒントがないか外そうとしたが・・・外れない!
そのとき・・・。

どどん♪

「うわっ!」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」

・・・またおかしなのが現れた。

「俺は指輪の魔人♪さあ、願い事を言ってごらん」
「指輪の魔人?願い事?・・・何でもいいがこの指輪を外してくれ」
「おやすい御用さ!」

男が触れると、指輪がするっと外れた。

「他には?」
「明かり点けれるか?」
「了解!」

男が指を鳴らすと、部屋の明かりがぱっと点いた。

「・・・窓はないな」

そこで改めて部屋を見回したが・・・やはり地下なのか、窓らしきものは見当たらない。
だが一応住める程度にはなっているのか、キッチンやベッドは一通り揃っていた。

「おや〜?このランプは・・・」
「知ってるのか?」
「君、知らないの?」
「知らん!」

男が言うには、何でも願い事を叶えてくれるシロモノらしい。
それを使えば俺は地上に戻れる!

「なら早速・・・」
「ああ待って!君、使い方を知ってるのかい?」
「使い方?」
「これはちょっと珍しい子でねえ、他とは違うんだよ」
「珍しい?お前は知ってるのか?」
「勿論!教えて欲しい?」
「頼む!」

男が言うのは・・・普通、魔法のほにゃららはそれ自体をこすると現れるらしいが?

「股間?」
「そう、股間」
「こするのか?自分で?」
「別に恥ずかしくないでしょ?自分の股間こするくらい・・・」
「恥ずかしいわ!」
「まあいいけど?それじゃ俺は3つの願い事叶えたから帰るよ。じゃね!」
「あっ、待て!」

言うやいなや、男は指輪にしゅっと消えていった・・・。

「マジかよ・・・」

俺だって男だ。たまには自己処理することだってある。
だが・・・ただ単に『股間をこすれ』と言われても・・・。

「くそっ!」

悩みに悩んだ末、俺は覚悟を決めた。
どうせ誰が見てるわけじゃなし!服の上からゆっくりと刺激する。
すると・・・ランプの蓋がカタカタと動き出した。

「出て来いよ・・・」

それなのに一行に現れる気配がない。俺も必死に股間をこすり続ける。
・・・当然刺激すればそれなりに変化するわけで。次第に俺は切羽詰まった状況になった。

「まだかよ・・・」

そのとき?

「俺を呼んだのは貴方ですか?」
(やっと来たのか・・・)

ようやく現れた男に、俺はほっと息を継いだ。

「ああ、そうだ」
「願い事を言って下さい」
「ここから出してくれ」
「わかりました。その前に・・・」
「???」

傍のベッドに押し倒され、「そのままじゃかわいそうだから」と股間を弄られ、なおかつ人には絶対言えないような経験をし・・・精も根も尽き果てた状態でようやく地上に戻れた。
・・・どく毒★読本とランプを手土産にして。


その日から、そいつ(テツヒロと言うらしい)は毎日のように現れた。
名誉のために言っておくが、俺が毎日好き好んで股間をこすっているわけではない!

「ソウイチさん、呼びました?」
「呼んでねーよ!つかお前、毎日風呂に現れるな!洗ってるだけだって!」
「またまた〜♪照れちゃってv」
「照れてねーよ!!!」

奴には『願い事は3つ』という制限もないらしい。
最近では普段も特に隠れるでもなく、一人暮らしの俺の世話をせっせと焼く始末で。
・・・なんだか段々慣れてきた。


そんなある日。

「ホント、ヒロト君には感謝してるよ〜」

夜中に目を覚ますといつも一緒に眠っているテツヒロの姿が見えず、廊下で話し声が聞こえた。

(電話か?)

魔人には魔人なりに付き合いもあるのだろう。俺は気にせずまた寝ようとした。だが?

「ソウイチさん、俺がランプの魔人って信じちゃってるし♪えっちも慣れてきたのか嫌がらなくなってね、むしろ喜んでる感じ?」
(なんだって!?)

聞き捨てならない台詞に、俺は眠気も覚めて聞き耳を立てる。

「大体珍子の魔人の俺に珍子勝負で勝てるわけないじゃない♪もう可愛いのなんのってv」

俺はゆらりと起き上がり、音を立てないようにドアを開け、テツヒロに近付く。

「イソガイさんに借りを作ったのはイヤだけど・・・。ソウイチさんとラブラブになれて感謝してるよ!」

尚もテンションが上がるテツヒロの背後に立つ。

「え?聞きたいの?それがねー、キスだけで腰が砕けちゃってね♪」

そしてぽんぽんっと肩を叩いた。

「何?今いいとこ・・・ひっ、ソウイチさん!?」
「誰と誰がラブラブなのかな?テツヒロ君・・・」

電話をガチャンと切り、真っ青になったテツヒロが後ずさる。

「説明してもらおうか?」
「わーーーーーっ!ごめんなさいごめんなさい!!!」

土下座で謝るテツヒロの頭をぐりぐりと踏んでやった・・・。


「で?」
「えっと・・・実は・・・」

テツヒロが言うには・・・『珍子の魔人』というのはホントらしいが、普段は人として生活しているらしい。それがたまたま、本屋で『どく毒★読本』をじっと眺めていた俺に一目惚れし、ヒロトとかいう魔法使いとイソガイとかいう指輪の魔人に協力させて一芝居うったそうだ。

「どおりで・・・。おかしいと思ったんだ、なんでお前がランプのない風呂場に現れんだろうってな」
「・・・」
「ランプは飾りってか?それで、どうすりゃお前は消えるんだ?」
「ソウイチさん!?」
「教えろよ」
「・・・貴方にいらないと言われれば消えますよ」
「そうか」

その寂しそうな表情に・・・俺はうっかり絆されてしまったわけじゃない。(断じてない!)
だけど犬だって3日も面倒みれば情がわくじゃないか・・・。

「仕方ねーな・・・。もう風呂場に勝手に入ってくるのはなしだぞ?」
「ソウイチさん!?」
「とりあえず置いてやるよ」
「ありがと♪俺、もっと頑張って沢山こすって、もっともっと気持ちよくしてあげますから!」
「ばかやめろ!そんな意味じゃない!」
「ソウイチさ〜んv」

・・・少し早まったか?
とんでもないのに好かれたもんだと、奴の体温を感じながら俺は苦笑した。


おしまい



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