選択肢


色んなことがあった。
将来のこと考えて。過去のこと考えて。
そして、今一番大切なことを考えて。

今すごくすごく幸せだからどんなことだって乗り切れるんだけど
でもさすがに少しだけ疲れてしまって
帰りの遅い先輩を待つ間、リビングでうとうとっとしてしまった。


「ただいま」

あ、先輩の声。帰って来たんだ。そんなに寝ちゃってたんだ、俺。
でもまだ・・・眠い。目が開かない。
お帰りなさいって言いたいのに。

「森永?・・・こんなとこで寝てんのか」

すみません。なんか・・・目を開けるタイミングを逸してしまいました。
先輩がシャワー浴びてる間に起きます。そしたらお茶入れますから・・・。

でももしかしたら。素敵な展開があるかもしれない。

このシチュエーションにおいて考え得る選択肢。 優しく起こしてくれる。毛布掛けてくれる。そしてもしかしてもしかすると寝てる隙にただいまのチューとかこっそり奪われてしまうかもとか。

はい。狸寝入りしながら、不埒で不毛な妄想してます、ごめんなさい。


・・・・・え。


先輩の顔が近づいてくる気配がする。
何てことだ!一番可能性の薄いっていうか限りなくゼロだった選択肢が今選ばれようとしている!?どうする、森永!

吐息がまぶたにかかりそうな程ほんの数センチの距離に先輩を感じる。
あ・・・もう・・・抱き締めてしまいたい、押し倒してしまいたい。


・・・・・・あれ?


どんどん気配が遠のいて、パタンとドアが閉まる音がした。
それから数分そのままで待ってみたものの、先輩が部屋から出てくる様子は無い。
何だったんだ。・・・・観察?・・・ああ・・・がっくり。
こんなことなら普通にせめてお帰りなさいって顔見て言えば良かった。
今更わざわざ部屋に言いに行くのも何だし。

ははは。とっても当確な選択肢だった。放ったらかしで置きっぱなし。
先輩はそういう人だから。きっとずっとそういう人だから。
甘い関係を望んじゃいけない。
傷付かない為にはいつも一番選んで欲しくない選択肢を予想してなきゃダメなんだ。

・・・だけど。最近俺は少しだけ、物事はいいように考えなきゃいけないんじゃないかなって思い始めてる。
俺は何でも悪く考える傾向があるから。それは時として大事な人の心を痛めることになるから。

夢でも妄想でも不埒でも不毛でもいいじゃないか。
一番自分が嬉しい選択肢を期待しよう。
そうだ、さっきの先輩は、一番大穴の、当たったら超ビッグな選択肢を選ぼうとしたんだ。
直前でちょっとだけ勇気が萎んでしまって、それで慌てて部屋に閉じこもってしまったんだ。
だからきっと今、俺のことを考えて火照った体を持て余してるんだ。

俺のこんな妄想も、先輩がしようとしたことも、それは決して恥ずかしいことじゃない。
恋人だったらあたりまえの行為。
好きで好きで好きで。そんな気持ちが溢れ出した結果。
このきゅっと甘苦しい気持ちは。恋するものの特権。

俺がこのままパタンと音を立てて部屋に入ったら。
このシチュエーションにおいて考え得る選択肢。
そのまま何も無い。俺が我慢できずに飛び出して先輩のドアをノックする。先輩が我慢できずに・・・・・。

泣いたって笑ったって結果が決まっているのなら、幸せな妄想をしよう。
嬉しいことだけ数えて行こう。

そしたらほら、世界が変わる。

もうすぐ聞こえる。幸せの足音。


「・・・森永。ちょっと・・・いいか」

「はい、どうぞ。お帰りなさい、先輩」


あなたの選択が正解だったって。分からせてあげるよ。
好きな気持ちに素直になることが、一番正しい選択なんだよ。


俺が選んだ人は、俺を選んでくれた。
さあ同じ気持ちで幸せに浸ろう。
ドキドキがひとつになる。


朝までもっともっとたくさんの、嬉しい選択を・・・まずはどっち?
どこから初めても、きっと最高の快楽。


おわり

(2010/11/20)

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