夏休み・2


さっきまでほんの僅かながらも熱風にたなびいていたカーテンが完全に動きを止めた。
セミの声がジリジリと暑さを増長させる。
ギンギンの西日が照りつけて来る。カキ氷も速攻で液体になる。

「せんぱーい、暑いですよー。エアコンつけましょうよー」
「やだ。閉め切ってるとおまえ絶対変な事してくるだろ!」
「もーしませんよー」
「うっせー。ちゃんと扇げよ!汗が本に垂れるだろ!」
「団扇なんかじゃ焼け石に水ですって。それに俺が暑いし・・・」

世間の学生は夏休みだけど、研究室内にミクロなペットを飼ってる俺達にはこうして交代で数日休むのが限界。
あーあ。さくっと南の島とか行きたいよなあ。二人で。
誰もいない夜のビーチとか・・椰子の木陰とか・・・満天の星を見ながら・・・


「や・・・こんなとこで・・・んなこと・・・」
「大丈夫ですよ。南十字星しか見てません」
「だめ・・だって、あ・・」
「風がここに直接当たって気持ちいいでしょ。もっと声出して」
「恥ずか・・し・・・やめ・・・」
「やめていいんですか?こんなに熱くなってるのに?」
「止めていいって言ってんだろ」
「え?」

「だからもう扇がなくていいっての。顔赤いし鼻息荒いぞ。家の中でも熱中症にはなるんだぞ、大丈夫か」
「や・・そんな・・・だ・・・あうっ」
「どうした?」
「いやちょっと・・・じゃあ俺、水でも浴びて来ます」
「???」


遊びたいよと暴れる息子に水を掛けてやってなだめる。だめだって。おとなしくしてなさい。
ああ、なんか俺、世間のお母さんの気分を満喫ですよ・・・。
でも俺だって遊びたい。
もっともっと抱き合ってたい。
朝から晩まで。
南の島なんて贅沢言わないから。
俺の部屋でいいから。
二人っきりで・・・


「森永」
「え、は、はい、何ですか。もう出ますよ」
「俺も入る。汗かいた」

思い切り混線した思考回路が繋がる前に、先輩がバスルームに入って来た。

「な・・・な・・・な・・・」
「何だよ。嫌なのか」
「嫌な訳無いってか・・・あの・・・」

急いでシャワーを適温に戻した。
狭い中でこんな・・・。せっかく眠った息子がまた目を覚ましてしまう。

じっと見つめたら真っ赤になって目を反らした。
・・・いっぱいいっぱい。そんなあなたの愛情表現。
俺は嬉しくて死んでしまいそうになる。
抱き寄せて口付けた。
シャワーの湯気でしっとりと肌と肌が吸い付く。

「具合悪いんじゃ無い・・・よな」
「心配してくれたんですか」
「だから部屋の中でも熱中症になるって」
「それは先輩に熱中し過ぎて」
「・・・・何をおまえ恥ずかしげも無く・・そんな・・・」
「わーわー。何でも無いです、いやさすがに恥ずかしい!忘れて下さい!」

真っ赤になった顔同士、ゆっくり近づけてそして合わせる。
求め合う。与え合う。最高に幸せ。

南の島じゃないけれど。
波の音じゃないけれど。

どこだっていい。あなたさえいればいい。

昼間からこんなところで。
こんな非健康的な背徳ささえ快感に変わる。
明日からはまたいつもの日常だから。
せめて今日だけは夢のパラダイスへ。
二人っきりで逃避しよう。

熱く熱く蕩けるほど熱い。
初めての。恋人同士の。夏休み。


(2010/8/22)

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