願い


『もしもし。森永さんのお宅ですか。真崎です・・・』

『あ、真崎さん?俺。哲博』

『ああ、哲君。こんにちは。国博いる?』

『あの・・・兄さん昨日から熱出しちゃって今寝てるんだ。今日映画の約束してたんでしょ?電話あるだろうからごめんって、行けないって言っといてって』

『熱?』

『うん。風邪だと思う』

『そっか。明日には治るかな。この映画のチケット、明日までなんだよな』

『うん、明日には意地でも治すって。なんかクラスの人達とどっか行くみたい』

『あ・・・そうなんだ・・・』

『女子も来るからって張り切ってたんだよ。そんな素振り見せないけどバレバレだって。おかしいでしょ。うちの兄さん真崎さんと違ってもてないから』

『そんなことないよ』

『え?』

『いや・・・うん、わかった。お大事にって・・言っといて』

『真崎さん!』

『なに?』

『あのさ・・・俺、今日暇なんだ!』

『え?』

『映画・・・俺一緒に行っちゃだめ?』

『え・・・いや・・・いいけど・・・。哲君にはあんまり面白くないと思うよ』

『内容なんかどうでも』

『え?』

『って・・あ・・・あのさ、映画ってあんまり行った事ないから行ってみたいんだ・・・ダメ?』

『いやいいよ。どうせこのままじゃ一枚無駄になるしね。2時からだから30分前位に迎えに行くよ。ああ、おうちの人に行っていいか聞いておいでよ』

『うん!大丈夫!うちの親真崎さんすごい信用してるから。大事にしなさいよ、ずっと仲良くしときなさいよっていつも兄さんに言ってるし』

『・・・・ははは。ま、それは俺の力じゃないよ・・・』

『え?』

『いや、何でもない。じゃあ後で』

『うん、すっごい楽しみ!待ってるからね!』



あの頃はとっても幸せだった
まだ背だって真崎さんより小さかったし
誰の目も気にせず手を繋いで一緒に歩けた

初めて二人で見た映画は外国のラブストーリーで
やっぱり俺には面白くなくて
そっと隣の人の顔ばかり見てた
ヒロインの思いが伝わらずにすれ違うシーンで
真崎さんの目から涙が零れた
俺は本当にガキだったから
ただただ綺麗だなってそれだけ思って
ずっとそれを見ていた

俺は泣かせないよ
でもとってもとっても悲しいことがあって
すごく泣きたくなったら
俺の胸で泣いて。ずっと抱き締めててあげるから
その悲しみが癒えるまで、側にいるから
誰からも守ってあげるから


その誓いは
あの日拒絶されて
儚く散って

でもやっぱりまだ俺は思ってる
泣かないで。悲しまないで。苦しまないで
もう抱き締めてはあげられないけど

悲しい涙を見せるのは俺だけでいい
もう誰にも見せないで

俺は本当に愛する幸せを知ったから
愛される幸せも知ったから
だから・・・

大好きだったあなたに
この喜びを教えたい
幸せになって欲しい
誰かを愛する事を止めないで
いつも笑っていて欲しい

心から・・・そう願ってる・・・


(2010/10/22)

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