kiss relish


「ただいま・・・って何だ、煙が・・・ん?何やってんだ、おまえ」
「あ、お帰りなさい、先輩。すみません、ちょっと一本貰っちゃいました」
「いやそんなのいいんだけど。おまえって吸わないんじゃ?」
「うーん。ちょっと。何となく。吸った事無い訳じゃないし・・・」
「いや別に未成年でも無し、構わんけど」


そりゃあ俺だってタバコくらい。まあ若かりし頃、興味本位で。 でも・・・あの人が、煙の匂いを嫌ってたから。


「似合いませんか?」
「似合うとか似合わねえとか、格好で吸うもんじゃねえんだよ」


哲博には似合わないからやめなよって。
今思えば・・・匂いがつくと兄さんに俺といたのがバレちゃうから。
だったのかなーなんてまあもうどうでもいいんですがね。


「先輩ってなんでタバコ吸うんですか?」
「なんでって」
「美味しい?煙が好き?」
「っていきなりなんだよ。いや別に。何ていうか・・・好きって訳じゃ・・・習慣っていうか・・・癖?」
「ふうん。俺もそんな風になりたいです」
「へ?」
「癖みたいに、自然に俺のこと吸って・・・っていででででで、違いますよ!変な意味じゃないですよ!ものの例えですって!」
「おまえが言うと何でも変態に聞こえるんだよ!」
「もう、ひどいなあ。普通に聞いて下さいよ、せっかくしみじみいいこと言ってんのに」


ぷりぷり怒りながら着替えに行ってしまった。
ふうっと溜息と一緒に天井に向かって煙を吐いた。
この、ゆらゆらっと形を変えながら上っていく煙を見るのが好きだった。
多分、そんな理由。
もっと好きなものがいろいろできたら
自然に吸わなくなってた。


吸殻をもみ消した。
もう一本・・・
いや
今の俺は単に口寂しいってだけ。


着替えた先輩がリビングに戻って来た。


「先輩も吸いますか?」
「いや・・今はいい」
「じゃあ・・・キス、しますか?」
「何でそうなるんだよ?」


ちょっと心に隙間が出来ちゃった時の俺は
自分でも驚く位強引だ。
応えてくれるあなたに甘えてしまう。ごめん。


「おいっ!またそんなっ!あっ・・・ん・・」


自然に・・・癖みたいに・・・
ずっとこうして側にいたい。キスしてたい。


「なんか・・いつもと・・・違う」
「タバコ味?たまにはいいでしょ?苦い俺ってのも」
「ば・・馬鹿っ」


そういえば先輩の最近のキスはフリスクのメントールの味。
もしかしておかえりなさいのキスに備えてくれてるのかなー
なんて
もうぶたれるのは嫌だから言いませんけどね


絡みつき、交換し、味わい尽くして
どっちの味かなんてわかんなくなった頃には


先輩は


ちゃんと俺の背に腕を回して


もうそれが習慣になって癖みたいに


自然に


もりながって


何度も何度も


呼んでくれた




(2010/7/30)

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