「いらっしゃいませ〜って、ちょーっと、エンゼル君!?何しとんの!?」
「え、何って・・・飲みに・・・」
「まさか・・・忘れとる?今日何の日か・・・」
「いや、ほら、だって毎年いつもヒロト君が・・・」
「それは去年までの話やろ?そりゃあフリーのお客さんの誕生日いうたら一緒に何やかやしてあわよくばどうこうしたろ思うやろ?今年はちゃうやろ?」
「え?え?え?何か・・・そんな・・・」
「ほんま何しとんの。こんな特別な日に。きっと先輩さん待っとるよ?」
「ああ、あの人はそんなことないから。ってかきっと俺の誕生日なんか知らないって」
「もう、だからダメなんやて。もう。なんでそういう知っているのに知らんぷりな微妙な乙女心わからんかなあ」
「いや、あの人乙女じゃないし・・・・」
「何でもええからはよ帰り!今日は何あってもボクは相手せえへんで」
「わかったよもう。じゃあ一人で寂しく誕生日過ごします」
「はいはい。またね。程ほどにな」
「・・・・・」
昼間ずっと雨降ってたから、すごい湿気で蒸し暑い。
誕生日って昔から、みんなでわいわい過ごした後で、なんかすごく寂しくなる。
一度だけ、恋人と呼べる人と、こっそり夜中に夜景を見に行った事があったけど。結局途中で雨降っちゃって、夜景もその後の期待してたあれこれも全部ダメになっちゃったんだよなあ。
きっと季節が悪いんだ。春とか真夏とかだったらもうちょっとマシなのかも。
俺、誕生日って好きじゃない。
なーんて。そんな事考えてもどうにもなんないし。
暑いな。先輩はまだ学校だろうな。忙しそうだったから。
おまえいても邪魔だから、待ってないで先帰れって、追い返された。
二人で暮らし始めたらよけい、一人の家に帰るのが寂しい。
俺がこんな性格なのは、生まれた季節のせいかも・・・ん?
灯が・・・ついてる。
帰って・・・る?
足を止めた。
この間みんなが誕生会してくれるって話の時・・・そういえば近くに居たかもしれない。今日の昼休みに・・・夕飯何がいいですかって聞いたらちょっと意外そうな顔してたかもしれない。
まさか・・・いや、待ってたなんて期待はしないでおこう。
知ってるはずが無い。一度だって言われたこと無い。
期待・・・しない・・・しない・・・しない・・・
深呼吸してから階段を上った。
・・・ん?何だこの匂い。なんか・・・焦げ臭い??
って・・・うち!?何でうちからこんな異臭が!?
まさか・・・先輩!?
「何してんですか!先輩!」
「お・・・おう。おかえり」
なんとか炭化部分を撤去して、素材不明味不明な先輩風もてなし料理をいただいたのは1時間後。
そして、聞こえない程の小さな小さな「誕生日おめでと」って呟きから始まった、もっと美味しいおもてなしを受けたのは2時間後。
雨雲はどんどん流れて、明日は晴れるって。
そしたら一緒に星を見よう。いつも一緒にって願いを掛けよう。
ずっときっとこれからは
俺はこの季節が一番好きになる・・・・
end
(2010/7/5)
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