たけ鳥ものがたり


今は昔。

竹藪の奥の竹取のお爺さんとお婆さんの家になんとも変わり者の姫がおりました。
姫は竹藪の中の実験室で毎日毎晩怪しい実験をしてるのですが、姫をぜひ妻にしたいと訪れる公達を容赦なく助手としてこき使い、さんざん酷使して殴って蹴って最後には追い出すという悪魔のような所業を日々繰り返しておりました。

それでも姫の美しさは都でも大層評判で、我こそはと訪れる求婚者は後を絶たず。
そしてある日、また一人の身なりの良い見目麗しい森永という若者がやって来ました。

身なりがよかろうとイケメンだろうと姫の暴君振りは相変わらずなのですが、森永はどんな仕打ちを受けようとむしろ楽しそうで、けっして出ていくそぶりを見せないのでした。

なにより今までの者達と比べてだいぶ手際が良く、頭の回転も良いので姫の怪しい実験はとてもスムーズに進んでいます。こんなことは初めてでした。今までは全て奴隷扱いだった姫が初めて森永という人間を認識し、名前を覚え、そして意識するようになったのでした。

そうして月日が流れました。

「ふうん、おまえなかなかやるな。認めてやってもいいぞ」

「本当ですか!俺たちついに恋人同士にっ・・・」

「違う!助手として認めてやってもいいって言ってんだ!」

「が、がーん。俺の気持ちを受け入れる気は無いんですか!?だったら一緒にはいられません」

「気持ちってなんだよ。今のままで何が不満だってんだよ。一緒にいればいいだろ?おまえがいないと・・・いろいろ困るんだよ!」

「でも一緒にいるってことはこういうことなんですよ、わかってますか!?」

「や、やめっなにすっ」

どこでそんなテクを身に着けたのやら、手際よく姫の十二単を脱がしにかかる森永。しかし姫だって黙っちゃいない。
それはもう竹藪を揺るがす大騒動。幸いおじいさんとおばあさんは耳が遠いので気づいていないようです。

結局半ば強引ではあったもののふたりはめでたく竹藪で熱い契りを結んだのでした。


しかしなぜかそうして恋人になって新婚らぶらぶ真っ盛りだというのに森永は以前よりも外出がちになってしまいました。
姫は気にしないそぶりをしつつもとても心配で、でも当然そんなこと口になんかしません。一人黙々と怪しい実験を続けますが有能な助手がいないとなかなかうまく進みません。

「あいつ・・・他に通う姫ができたのか。だったらもう帰ってくんな!」

それとまた、姫には最近悩み事があるのでした。
ここ数日、なぜか言葉を話す黄色い鳥がまとわりついて、金だの愚だの星だの蛙だのとピーピーうるさいのです。
そしてそれはなぜか無性に懐かしい言葉のような気もして、無下に追い払うこともできないのでした。


さて所変わってこちら宮中。
中央の御簾におわしますのは・・・なんと姫と竹藪の契りを交わした森永。
そうです、彼は時の帝だったのです。
実は森永の元にも怪しい黄色い鳥はやって来ていたのでした。お抱えの術師やら学師やらに調べ上げさせて、なんとその鳥が月の遥かかなたのキング星から来たことや、姫がその星の者で次の満月の日には星に帰らなくてはならないということを伝えていると知り驚愕していたのでした。

「いやだ。絶対に姫は渡さない。国中の兵を集めて迎え撃ってやる」






そしてあっという間に満月の夜。
そんなことで森永帝が超忙しいとは露知らず、今日も一人寂しく実験を続ける姫。でも心ここにあらずの状態でうっかり間違った薬品を混ぜてしまいあたりは煙がもうもうと。

「うわっ、やっべえ換気換気ってうがあ!」

なぜか煙の中から裸マントで王冠を被った男が現れました。

「てめえ誰だ!」

そこに駆けつける森永帝。

「姫、どうしました!」

「森永!今までどこにってそんなことはいい!いきなりこんな奴がっ!」

「え?ま、真崎姫?」

「人違い。このお方はキング星のキング様」

答えたのは王冠の上の鳥。

「おい、真崎姫って誰だよ」

「え、あ、誰でもないです、ってか昔の、ちょっと知り合い?」

「ああん?てめえ俺の前でよくも他の姫の名前なんかってかここ数日どこに失踪してやがった!」

「ちょっ、今はそんなことよりこの怪しい方をどうにか」

その時外がやけに明るくなりました。慌てて外に出てみると、月の方からハート型の奇妙な乗り物がやってきました。

「来たな!皆の者!迎え撃て!」

帝の号令で兵は矢をつがえますがそのハートの乗り物がやけにショッキングピンクに輝いていて目を射られてしまって狙いが定められません。

「キング様〜お迎えにあがりました〜」

ハートの中から眼鏡の執事が叫んでいます。黙ってそこに吸い込まれていくキング様と呼ばれたなぞの裸男。

「地球は楽しかったですか?寒く無かったですか?それで例の姫には会えたのですか?」

「あいついらない。暴力反対。哲博にやる」

また鳥がしゃべります。

「そうですか。キング様がそう仰るなら置いて行きましょう。では皆様、ごきげんよう」

「は?いらないってなんだ!ってかてめえらなんだったんだよ!」

結局よく分らないままにハートの乗り物と眼鏡の執事はキング様だけ連れて帰って行きました。


「よかった・・・姫。これでもうこれからはずっと一緒ですね」

「おまえも・・・帝だったなんて聞いてねえ。みんなして俺は騙してたのか?」

「そんな!違います。俺だって何がなんだかわからないですけどでもこれでめでたしめでたしってことでいいじゃないですか。ね。さあ久しぶりに今日は二人だけのしっぽりとした竹藪の夜を・・・」

「真崎姫って誰だよ」

「嘘!なんでそこ突っ込むの!」

「てめえもさっさと帰れ。二度と来るな」

「ちょっとキングの人!もっとちゃんと説明してってください〜〜〜!」

というわけで。どこの星の者だろうが帝の后だろうがお構いなしで今日も変わらず乱暴者ですが、でも来るなと言ってもダメと言ってもやっぱり結局は受け入れちゃう。 愛に溢れた暴君姫。
ふたりはそれからも竹藪の中で怪しい実験を続けながらとりあえず幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

おしまい




(2013/7/08)



一覧に戻る

ブログに戻る