エロ敷

                     もみじ

T

長い夜が明けなければいい。
この人と交わる時はいつも思ってしまう。

愛しい人は俺の腕の中でじっとしている。
激しく睦みあった後は、無言でそっと体を寄せてくる。
顔は見えなくても、しがみつくように力をこめる細い腕が
その気持ちを物語る。

離れたくない。
朝が来れば、あなたと離れてしまう。
それが・・もどかしくて苦しい。

もぞもぞと動く気配に腕の力をゆるめると、
ゆっくりと起き上がり寝たままの俺にまなざしを向ける。

「水・・飲んでくる」

ゆっくりと立ちあがるのを、腕をつかんで止める。
体は再び俺の横に戻る。

「なんだ?」

怒ることもせず問いかけてくるのも、
俺達の絆が確かなものになった証拠。

「少し待ってもらえます?渡したいものがあるんです」

床に落ちた上着を先輩に着せて、俺は机に手を伸ばし、
引き出しの奥にあるものをとりだす。

上体を起こしてベッドでまつ先輩の横に寄り添うように戻ると、
よれよれになった紙袋をそっと布団の上に置く。

「それは?」

「・・・ただのハンカチです。柄が唐草模様なんです。小さな風呂敷みたいでしょ」

「なんでそれを?」

不思議そうに首をかしげる先輩を、笑いながら見つめる。

この話はもう誰にもする事はないと思っていた。
でも・・・この人だけには話したかった。

「実は・・これ真崎さんにプレゼントする予定だったんです」

あの頃を思いだして少し心が痛んだが、
そんな俺を心配してのぞきこむ先輩。
静かに息を吐いて、ゆっくりと話を続ける。

「あの事件の前・・・2人で買い物に行った時に真崎さんがこれがかわいいなって言ってたのを聞いてて・・・
こっそり買っておいたんです。プレゼントしようと思って。でもあんなことになってしまって・・・・
いつか渡せたらと思いながら捨てられずに・・・今に至るんです」

情けないですよね?と、笑顔でごまかすけども、横にいる先輩には通用しなかった。
強い視線にあてられて怒られるかな?と思いながらその目を見つめ返す。

「そんなもの・・・捨てろよ」

俺よりも悲しそうにさせるつもりはなかったのになぁ。
俺はいつも先輩を傷つけてばかりだ。

「・・・我ながら、未練がましいのはわかってるんです。でも いつかいつか大事な人に出会えたら・・」


ためらいのあと、そっとそのタオルを先輩に渡す。
拒絶されるのが怖くて言葉がとぎれとぎれになる。

「これをもらってくれませんか?お願いです・・」

「俺が?」

何か言われるかと覚悟していたが、少しの沈黙の後ぼそりと呟いた。

「あいつの趣味ってのが気に入らないが・・もらってやるよ」

「先輩・・それって」

俺がそのハンカチをあげるということは、あなたが大事な人だって
認めてくれることになるけどいいのかな?
ほんのりと赤くなった頬が少しゆるむ先輩が、たまらなくて強く抱きしめる。

「・・苦しいって」

「ありがとう。これでやっと・・」

「ばーか」

引き剥がすこともせず、髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる先輩。

やっとこの思いが・・・

「でも俺あんまりハンカチとか持たないけどいいのか?」

「・・これね、こうやって使ってほしかったんですよ」


そっと体を離して、布団をめくる。
そこには何も着ていない先輩の無防備な体がある。
真っ白なきめ細かい肌には、俺がつけた赤い印がところどころに散らばっていた。

「んだよ!いきなりっ」


慌てて足をそろえて隠そうとしても、中心の高ぶりは隠しようがなかった。
あんな何度も達したのに、まだ俺を求めてくれるのだろうか。
そっと閉じた足を開いて、ゆっくりと愛撫するとまた硬くなり形をなしてきた。

「やっ・・・・駄目だ」

感じる自分が恥ずかしいのか、両手で顔を覆い、快感を覚えるその表情を隠す。
体はびくりとしなり、足はこらえきれず小刻みに震える。

「これをね・・ここにつけるんです」

そっと手を離し、枕元に置いた唐草模様のハンカチを手に取る。
意味がわからないようで困惑する先輩。

その昂ぶりにそっとその小さな風呂敷をかぶせて端をゆるく結ぶ。

「なっ・・・・」

真っ赤になって硬直する先輩に俺は言葉を繋げる。

「いつも・・・ここが寒そうだなって思ってたんです。  俺にとっても大事なものだし・・・」

怒られるかと思ったが・・・複雑そうな顔でしぶしぶと答える。

「おまえが・・・満足なら」


先輩の中心に風呂敷にくるまれたものを手で包みこむ。
そのままタオルと一緒に上下に動かすと、たまらなくなって身をよじる。

「だめ・・・だ。汚れる・・だろ」

やめろとはいわない先輩が可愛くて思わず手の動きもだんだん早くなると
「んっ・・・」と短く息を吐き出して限界が近いのを俺に伝える。

「ああっ・・・・」

風呂敷の中には、生暖かいものが溢れだしたのがわかった。
そのままハンカチに吸収されて、布地がじっとりと湿ってしまう。

「すまん・・・せっかくもらったのに」

恥ずかしさに全身を朱に染めて、しょぼんと俯く先輩が愛おしい。

「いいえ、これはただのハンカチで。俺が一番大事なのは先輩ですから。
 プレゼントしてなんですが、これいただいてもいいですか?
洗わずにずっとずっと宝物にしたいんです」

「おまえ・・・絶対変態だよな」

「先輩限定ですよ?」

「・・・じゃなかったらゆるさねぇ」

そっとハンカチを取って綺麗にたたむ。

唐草模様の小さな風呂敷。
あなたが受け取ってくれた
ようやく実った俺の恋

これから先何度も
この幸せを噛みしめるだろう。

このエロ敷きを見るたびに・・・


U

エロ敷きをつけた先輩は恥ずかしそうに顔を背けてたが、ふと俺の顔を真剣に見つめ返す。

「俺も・・・お前に渡したいものがあるんだ・・・取って来てもらえるか?」

自分で立つことができない先輩が、部屋の引き出し中にあるものを俺に取ってくるように頼んできた。

よくわからないまま先輩の部屋に向かう。
そっと部屋に入り、机の引き出しの一番上を開ける。
がらんとした引き出しの中に少し古めの小さな紙袋を見つけた。
そっと手に取り部屋を後にする。

「先輩、持って来ましたよ」

「さんきゅ・・・」

少し寒くなったのか、布団を羽織っている。
その下のエロ敷きはまだそのままなのだろうか・・・それは見ることができなかった。

袋を手渡して、俺もその横にゆっくりと滑り込む。

「それは・・・・?」

「お前にずっと渡したかったものだ」

かさりと袋から出てきたものは俺と同じ唐草模様のハンカチ・・・
いや、少しあれよりも大きめなものだった。

「俺のと同じ柄・・・」

「ああ、偶然だがな」

まるで同じ店で買ったかのようなハンカチ。
ただ・・・新品ではないようだった。
少し端がよれて何度か使われた形跡があった。

「これは・・・母さんの母さんが昔から使っていたものらしい。
母さんはいつも大事にしていて・・・形見みたいなものだと言っていた。
で・・・小さい頃『これは大事なものだから宗ちゃんが大事だと思う人にあげなさい』って言われて今まで持っていた物だ・・・」

目が潤んで唐草模様のハンカチを持つ手に力が入る。
おずおずと上目遣いに俺を見る目がいつもの先輩らしくなく、どこか戸惑いさ迷っている。
「先輩?」

開きかけた口が開いたかと思えばすぐ口をつぐむ。
三秒くらいじっと動かなかった先輩が、ばっと顔を上げた。
紅潮した顔は凄く魅力的で目が離せなかった。

「これを・・・お前に・・・」


差し出された風呂敷包みは微妙に震えていた。

「俺に?もらっていいの」

「これ以上言わせんな!」

ぐいと風呂敷きを俺に押し付けてぽすりと布団に顔を埋めてしまった。

「可愛い顔もっと見たかったのに・・・」

「うっさい!うっさい!」

そっと布団の上にその中身を広げると、先輩に上げた風呂敷よりも少し大きめなものだった。

「ね・・・先輩。これ・・先輩とお揃いにしてほしいな?」

「は?」

そっと先輩の手をとり、俺のまだ高ぶっている部分にその手を誘う。

「お・・・おいっ」

慌てて手を外そうとするので、俺の手を上から重ねて軽く握らせる。

「これに包んで?ね?」

「・・・うう・・」

間近に迫った俺の笑みにぐっと後ろにさがる。
そのタイミングで布団をめくると、俺のつけたエロ敷はそのままだった。

「つけててくれたんだ・・・」

「あっ・・」

急いで両足をあわせて見えないように身をよじる。
外された右手を追って風呂敷きを握らせると、先輩は観念したようで
もう逃げる事はしなかった。

俺のものにそっと風呂敷きをかぶせて端を結んでくれる。
もちろんその手は震えて、何度も結び目を作ろうとする手がすべってしまう。
「見るなっ・・・」

風呂敷きをつけたままの先輩が、風呂敷きを結び終わると
思い切り胸を手で押して俺を突き放した。

後ろに倒れそうなるのをなんとか手を付いてこらえる。
そしてそのまま反動をつけて起き上がり、先輩に抱きついた。

「もりな・・・がっ・・・」

冷たくなった体に体温を分けるようにぴったりと抱きつく。
回した腕も、指先も先輩を求めて力がこもる。
きっとあざになっちゃうかな。
でも溢れる気持ちが抑えられなくて我慢ができなかった。

「ありがとう・・・ありがとう・・・」

涙がじわりとにじむのを押さえられない。
苦しいのか途切れ途切れに息をする先輩が愛おしい。
そっと俺の髪を優しく梳いてくれる。

このまま一つになってしまいたかった。

唐草模様の小さな風呂敷、大きな風呂敷。

ペアルックなんて乙女だけど
大事にするから

あなたの大事なエロ敷きも
俺にはかけがえのない宝物

これから先何度も
この幸せを噛みしめるだろう。

このエロ敷を見るたびに・・・


 おわり

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